未明の幻想世界

私の脳内で展開される世界を小説にして投稿します!彼らの運命を見届けてくれる人が一人でも多く現れることを祈って……

0、プロローグ〈3〉

 

「それにしても、1人で出稼ぎに来るなんて偉いね。アリアちゃんはいくつなの?」
「うーんと、12かなぁ」
アリアは石ころを蹴飛ばしながら答えた。
アリアとエーヴィは、歩きながらお互いに他愛のない会話をしていた。先ほどの武器屋からエーヴィの働いている食堂「もぐもぐ亭」まではそこそこの距離がある。よって歩きながらの会話は、すでに20分近く続いていた。
仲良く二人で歩く姿はまるで姉妹のようで、道行く人々に「エーヴィちゃん、妹がいたのかい
?」と聞かれるほどであった。今まで家族というものにほとんど触れたことのなかったアリアにとってそれははじめての経験で、少しくすぐったい気分になる。
「そっか、12歳か。私が家を出たのとおんなじくらいかな」
エーヴィは過ぎし日を懐かしむように言った。
「エーヴィはどうして家を出たの? 」
そう聞いて、アリアはすぐに自らの質問の軽率さに赤面した。子供が家を出て中央都に来る理由など、出稼ぎ以外にないではないか。しかしそんなアリアの質問に気分を害した様子もなく、エーヴィは自分を指差して「私のこと?」と聞き返した。アリアが肯定すると、エーヴィは少し困ったようにしてから答えた。
「わたしは役立たずでね。兄や妹に比べて何もかも全然ダメで、幼い時に家を追い出されちゃったんだ。それで中央都のあるお家に引き取られたんだけど、そこもいろいろあって。結局なんだかんだで家にいられなくなっちゃって、今はもぐもぐ亭のおかみさんの好意で住み込みで働かせてもらってるの」
「そっか。みんな大変なんだね」
アリアは複雑な気分でそう返した。自分が塔の上で豪華な食事をお腹いっぱい食べている中で、家庭の事情で家を追い出されてしまう人や、自分の明日の生活費を得るために出稼ぎに来る人々がいるとは。話には聞いていたが、実際にあって話してみるとより実感できる。子供であろうと、一人前に働かなくては生きていけない。それがカルンストルム王国の実情だ。それを知れただけでも、塔から降りて来た甲斐があるとアリアは思う。
「あ、ついたよ。ここが私の働いてるお店」
前を見てみると、道を行った先に『もぐもぐ亭』と書かれた看板が見えた。エーヴィは店の中に走っていくと、少ししてひょっこりと顔を出す。
「待ってて、昼ごはん作るから!」

もぐもぐ亭の看板メニューはお皿いっぱいの大きさのハンバーグだ。もちろんエーヴィが出してきた昼ごはんも巨大ハンバーグだった。
「いただきます!」
お腹の空いていたアリアは目を輝かせてハンバーグにナイフを通す。少し硬めに焼かれた肉は、普段彼女が食べているものと違って切りづらかった。唸りながらナイフを前後に動かしているアリアをみて、エーヴィは堪えきれなくなって吹き出す。
「それは切ろうとしちゃダメ。こうやって食べるの」
そう言ってエーヴィはハンバーグにフォークを突き刺し、思いっきり噛みちぎるジェスチャーをした。アリアは見たことのない食べ方に戸惑ったが、見たとおりにフォークを肉に突き刺し、口に持ってきて思いっきり噛みちぎった。するとジュワッと肉汁が溢れ出し、口中に芳ばしい香りが広がる。初めて味わう美味しさに、アリアの目が星空のように輝いた。
「おいしい……!」
「そう?よかった」
エーヴィはそういうと、立ち上がって水を持ってきた。アリアはその間も、無心にハンバーグをむさぼり続けている。庶民の食事は質素だという固定概念を抱いていたアリアにとって、このハンバーグは革命だった。自分がいつも食べている食事でもこんなのが出ればいいのに。アリアは明日からの食事が少し憂鬱に思えた。